支援者の傷付き(一)
こんにちは。
高校の時のある教師が言っていた言葉。
これから自動車免許を取得し、自動車を運転するであろう生徒たちへ向けた、教師の、大人としての助言。
『車を運転すれば、いつか必ず、事故に遭う。(事故を起こす、巻き込まれる、遭遇する)だから、自動車保険は良い保険に入っておきなさい。』と。
運転しないより、運転すれば、いわゆるリスク(予測できない危険、損害を受ける可能性)が増すのは当然です。当たり前過ぎて、多くの人々が見落とすことだと思います、
人間は、人の間(社会)に生きる存在です。
多かれ少なかれ、濃密かそうでないかを問わず、必ず人間関係を結び、その中で振る舞い、生きております。
何を当たり前のこと、と思うかもしれません。
家族、友人、職場、地域、必ずさまざまな人間関係の中に生きており、この人間関係にこそ、人は支えられ、生かされ、逆に、傷つきもし、悩みもします。
支援する場とは、支援を必要とする相手に対して、支援する人が関わる場です。
特殊な前提がある故、何も意識しないで結ばれる人間関係よりも、複雑で配慮が必要です。だって、支援が必要、支援を提供する場なのですから。そこでは、クライエントの身に、何かしらが事が起きたり、また、何かしらの必要を抱えているのは間違いありません。
そのような状況に入っていくのですから、そこに必ず、リスクが生じます。支援者にとっても、クライエントにとっても。
クライエントは何かしらの課題や問題を抱え、その解決を求めております。それを認識している場合もあれば、そうではないこともあります。だから、繊細な、目に見えない、関係の結び方に着目しながら接していく必要があります。
前置きが長くなりましたが、繊細さが要求されるので、クライエントとの一対一の会話も、ある程度、慎重にならざるを得ません。
それこそ、例えですが、「患部」に触れるような気持ちで望む場面もあります。逆に、そこまでの配慮が求められない場合もあります。
どのくらいの度合いが求められるか。
支援者が仕事をする領域、所属機関の性質、それはクライエントの状況によっても異なります。
前提を長々と話したのは、特殊な関係の中に割って入る以上、絶対に配慮が必要で、その配慮を読み違えると大変な事態が生じるリスクに、支援者は常にさらされているということをお伝えしたかったからです。
例えば、重篤な疾患が生じた患者や家族に、状況を考えず淡々と社会資源の説明をしたらどうなるでしょうか。言うまでもありません。
しかし、実際にはどんなに想像力を働かせても、経験を踏まえても、上手くいかない事態は必ず起きます。クライエントの状況、クライエントの期待値、その他の諸要素を完全に読みきることは困難です。
いつか必ず、期待しない、予期せぬ、何かしらの「事」が起きることは避けられないと僕は思います。
ジェンガという遊びがあります。小さな部分が集まって、直方体の塔のように積み上がった所から、片手で一片を抜き取り、最上段に積みあげる動作を交代で行う遊びです。
誰も崩そうと思って、崩しはしません。崩れないように見計らっても、やっていく中で、全体の均衡が崩れ、どこかで崩れてしまいます。
繊細な、支援関係という人間関係は、ジェンガにも似ていると僕は思います。
崩してはいけない緊張感、それでも尚、作業を続け挑まなければならない心理的負荷、崩してしまった失望感に、僕は支援者の心理を重ねてしまいます。
支援においても、誰も悪くしようと思って支援する人などおりません。
良かれと思って、必死に考え、支援に臨みます。
しかし、その支援は図らずも、期待した結果に至らないことも間々あります。それは、必ずしも支援者のせいとは限らず、難しい現実の構造、それ以外にもいろいろな要素があります。
そのことを、当の支援者自身も、とても残念に思い、時には自分を責め、「あの時、もっとこうすれば」の後悔が心の中で延々と繰り返したりします。
そのくらいに、難しい作業(支援、課題・問題解決)に挑んでいるのだという前提の認識を持つべきだと思います。
基本的に、支援者(援助職、医療従事者、福祉職、教職、管理職等)はとても忙しい現場で業務に従事しております。
その精度の高い専門的行為を、いつも一定して行使すること自体、実は容易ではなく、ましてや、毎回必ず期待した結果を得ようとすることには、どこか無理があると思います。
決して、悪い結果が起こることを一方的に擁護する訳ではありませんが、支援者の置かれた立場、心理的負荷を認識する必要があることを僕は声を大にしてお伝えしたいです。
(次回に続きます)
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